美裸態プロジェクト MIRATAI

The trigger was...

HOME | PROJECT | The trigger was...

TRIGGER

手鏡との出合いがきっかけであった…

美しき手鏡

 

手鏡が映し出した少年の密やかな身体

 己の身体への好奇な知覚は、少年期にゆるやかな来歴として刻み込まれる。
 
 私はまだ、自分の「後ろ姿」というものを、はっきり見ることができないでいた。突然、鏡を使って自分の「後ろ姿」を眺めることを試み、密やかな好奇心を抱いたのだった。

震える手に鏡

 それは美しい資生堂の手鏡であった。母親が使っていた鏡台の引き出しの中に、それがしまわれてあった。美麗な装飾が施されていて、子どもの小さな手でも持ちやすかったのである。
 
 小学2年生の頃だっただろうか。ある日、家に自分一人しか居ないのを見計らって、鏡台から手鏡をこっそりと持ち出した。
 
 密やかな衝動に駆られたのだ。締め切った部屋の中で、私は衣服を脱ぎ、裸ん坊になった。そして鏡を腰のあたりに持っていき、自分の尻を眺めてみた。ハッとなって私は手鏡を鏡台の引き出しに戻した。
 やがて親が帰ってきた時、高鳴る心臓の鼓動は止まらなかった。あの興奮はいったいなんだったのだろう――。その最初の「秘匿の行為」は、忘れがたい体験となった。

会陰の発見

 誰にも知られていない経験は、その後、何度も繰り返された。小学5年生くらいの時には、完全なる好奇心がうずまいて、性の目覚めと発展した。
 もはや慣れた非日常のごとく、手鏡を持ち出し、部屋の中で裸身をさらした。そして私は、しゃがんだ体勢で手鏡を床に置くような状態にして、その低い位置から、これまで見たこともない世界を発見したのだ。光が届きにくい暗がりの鏡の中に、ひっそりと影を落として映っていたのは、真っ白な恥部の、ちっぽけな会陰だったのである。
 
 その会陰に細く伸びている筋が、私の新しい好奇を生み出した。その細い線を触ることで、ちょっとした盛り上がりが感じられ、くすぐったい快感を覚えたのだった。
 
 ここは、生まれる前の引き裂かれていた右身と左身をくっつけて合わせた秘密の痕跡であり、「私」の身体はそうして生まれ出てきたのだということ――。会陰の細い線から下降して眺めれば、沈みきった暗闇のつぼみが映し出されている。触れば電気が体内を駆け巡る作用点。しかしながら、少年期の私にとってそこはまだ、快楽のつぼみとはいえないもので、あくまで形象の一部としてのつぼみなのであった。

曲線と隆起と暗い森

 それらは、手鏡がなければ発見できなかったのだ。密やかに、神秘の世界が広がっていたのだから。
 私の身体の内側から、これから起こるであろう予兆の謎めいた羽音が、なにかざわめいているかのようだった。私はいくつも眠り、時がすぎた。
 
 17歳になり、突然思い出したようにあの手鏡を持ち出して、再び「秘匿の行為」を楽しもうとした。しかしそれは、高まるものとしての探検とはならなかった。
 
 もうそこは、以前のそれとは違い、無垢なる世界がひろがってはいなかったのである。少年だった白い平原の光景は、すでに人の立ち入りで踏みにじられた荒々しい森の様相に変貌し、淫靡さは失われていた。鏡に映された雑然とした草叢が、あの細い線の痕を全て隠してしまっていて、深い谷間の曲線美は微塵も感じられなかった。
 
 かつて震えていたはずの手鏡の価値はここに無く、過去の優美な栄光をひもとくには至らなかった。永遠に葬り去られるべきものとしての反射鏡。鏡は無垢で清純な身体を映さなくなってしまったのである。手鏡の死――。
 
 だからこそ私は、その復権に手管を注いだのだった。「美裸態プロジェクト」。自己の密やかな身体の発見――。美裸態の真実は、そこにあるのだ。

(2026.08.14)

それは資生堂の手鏡であった…


少年の頃はじめて後ろ姿を鏡で見た


恥部の会陰を鏡で知った


再びもう一度、鏡の秘めたる光を放ちたい